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ノーザンブロッティングでRNAを検出・定量する原理と4ステップの方法

ノーザンブロッティングの概略図
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皆さんはノーザンブロッティング(Northern blotting)、ノーザンブロット(Northern blot)について説明できますか?また、実際にノーザンブロッティングで遺伝子発現の定量ができますか?

「講義で学んだが、よく理解できなかった」「実習で実際にやったけど、原理までは説明出来ない」「卒業研究で必要なので復習したい」

今回はこのような悩みを持つ学生の方に向けて、ノーザンブロッティングとは何か?ノーザンブロットティングの利点と欠点、実際にどのような方法で行うかをまとめました。この記事を読んで、講義で学んだノーザンブロッティングを復習し実際にRNAを定量できることを目指しましょう。

ノーザンブロッティングの概要

ノーザンブロッティングの目的

ノーザンブロッティングとは、mRNAの発現を解析する方法の一つです。細胞内で遺伝子が発現する際、ゲノムDNAから転写されたmRNAをもとに、タンパク質が合成されます。ノーザンブロッティングではこの転写されたmRNAを検出・定量することを目的にしています。

ノーザンブロッティングの原理

まず、細胞や組織のサンプルから抽出したmRNAをアガロースゲル電気泳動によってmRNAのサイズごとに分離します。続いて、サイズごとに分離したmRNAを、ニトロセルロース膜もしくはナイロン膜(メンブレン)に写し取ります。mRNAが転写されたメンブレン上で、標識したプローブにより目的のmRNAのサイズと量を検出します。

ノーザンブロッティングのメリットとデメリット

mRNAを定量する方法には、ノーザンブロッティング以外にもいくつかの方法があります。

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ここでは、一般的に広く用いられているリアルタイムPCRと比較したときの、ノーザンブロッティングのメリットとデメリットについて解説します。

  • 転写産物のサイズが分かる
  • 異なるサイズの転写産物を検出できる
  • 検出の特異度が高い
  • 別のmRNAの測定も可
  • 測定コストが安い
  • 定量はできるが微量な差を検出しにくい
  • 測定に必要なRNA量が多い
  • 測定に時間がかかる

ノーザンブロッティングのメリット

転写産物のサイズが分かる

ノーザンブロッティングでは、アガロースゲル電気泳動でmRNAをサイズごとに分離する際に、指標となるRNA分子量ラダーマーカーを同時に流すことで、目的とするmRNAのおおよそのサイズがわかります。mRNAのサイズについてはリアルタイムPCRでは得られない情報です。

異なるサイズの転写産物を検出できる

DNAからの転写産物は、タンパク質合成に用いられないイントロンが除かれてエクソンのみにされる、スプライシングを受けます。この際に、スプライシングを行う部位や組み合わせが変わることで、複数種類のmRNAが生成される選択的スプライシングが起こります。ノーザンブロッティングでは、この選択的スプライシングによって生じた様々なサイズのmRNAを検出することができます

検出の特異度が高い

ノーザンブロッティングではリアルタイムPCRと比較し、特異度が高いといわれています。ノーザンブロッティングでは、ハイブリダイゼーションの際に非特異的な結合や部分的に塩基配列が一致し誤って結合しても、多くは洗浄作業で除去できます。一方でリアルタイムPCRでは、本来目的とするmRNA以外にもプライマーが結合する部位がある場合、誤って結合したプライマーで核酸が増幅します。この結果、リアルタイムPCRと比較するとノーザンブロッティングの方が誤ったプローブとの結合が与える影響が小さいため、特異度が高くなります

別のmRNAの測定も可能

mRNAを転写したメンブレンは数年単位で保存できます。そのため、測定のために一度結合させたプローブを取り除き(ストリッピング)、改めて別のプローブを結合させる(リプロービング)ことで、別のmRNAを測定することが可能です。一方で、リアルタイムPCRでは、核酸を増幅し、増幅度合いを発光により検出している為、別の遺伝子を測定使用しようとすると測定をやり直す必要があります。

測定コストが安い

リアルタイムPCRでは専用の測定機器や逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、さらには二本鎖DNAに取り込まれる蛍光物質もしくは蛍光標識したプローブを用いるため、機器や試薬の費用が高額になります。一方で、ノーザンブロッティングで用いる試薬や機器はリアルタイムPCRと比較すると安価です。

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ノーザンブロッティングのデメリット

定量はできるが微量な差を検出しにくい

ノーザンブロッティングの定量はバンドの濃淡を比較することで検出します。しかしながら、mRNAの量の差が小さい場合、バンドの濃淡ではその差を十分検出できないことがあります。一方、リアルタイムPCRでは、核酸を増幅させ、一定量を超えるまでにかかる時間から定量を行うため、微量な差でも検出することが可能です。

測定に必要なRNA量が多い

リアルタイムPCRでは比較的少量(100ng程度)のRNA(rRAN、mRNA、tRNAを含む)でも核酸を増幅させながら測定するため十分測定は可能です。一方、ノーザンブロッティングでは最低でも5〜10 µgのRNAが必要になります。そのため、リアルタイムPCRの50〜100倍のRNAが必要になるため、多くのRNAサンプルを抽出する必要があります。

測定に時間がかかる

リアルタイムPCRの反応は最短で1時間あれば完了します。一方で、ノーザンブロッティングではアガロースゲル電気泳動に2〜3時間、ブロットに一晩、ハイブリダイゼーションに一晩かかります。検出は数分で完了しますが、総時間がリアルタイムPCRと比較すると圧倒的に長くなります

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ノーザンブロッティングの手技

ここからはノーザンブロッティングの工程を4つに分けて紹介します。

ノーザンブロッティングの工程
  1. RNAの抽出
  2. アガロースゲル電気泳動
  3. ブロッティング
  4. 検出

※実験を通しての注意点

最大の注意点はmRNAの分解を防ぐ事です。器具はRNA専用器具を使用し、器具の滅菌、RNase阻害剤で処置します。試薬や水もRNase失活剤のジエチルピロカーボネート(DEPC)で処理します。

RNAの抽出

初めに細胞や組織からRNAを抽出します。今回は、RNAを抽出する代表的な方法を2つ紹介します。

有機溶媒を用いた抽出法(AGPC法)

DNAとRNAでは糖の部分が、DNAではデオキシリボース、RNAではリボースとなっています。そのため、酸性条件下でフェノール処理するとDNAは有機相に、RNAは水相に分配されます。この性質を利用し、グアニジンチオシアネートによりRNaseの失活と細胞の可溶化を行なった後、フェノール/クロロホルム処理により水相に分配されたRNAを回収します。

スピンカラムを用いた抽出法

グアニジンチオシアネートで処理した溶液をシリカゲルメンブレンカラムを通してRNAを抽出する方法です。細胞や組織をホモジナイズまたは凍結粉砕し溶解した抽出液から、まずDNAを除去します。その後、RNAを吸着するカラムに通し、RNAのみを単離します

アガロースゲル電気泳動

アガロースゲル電気泳動
画像素材【PIXTA】

RNAをアガロースゲルを用いてサイズにより分離します。RNAはリン酸基を有しており負の電荷を持つため、電気泳動で陽極側に引かれます。アガロースゲルは網目構造をしており、サイズの大きなRNAはゲルの中をゆっくり進みます。一方で、サイズの小さいRNAは網目の隙間を進むことができるため早く移動します。この際、mRNAをグリオキサールまたはホルムアルデヒドで処理すると、RNAが変性し、立体構造を失います。これにより、立体構造に関わらず、RNAをサイズの違いで分離することが可能になります。また、アガロース濃度の調整により、網目の細かさを調整可能です。濃度を濃くすると網目が細かくなりサイズの小さいRNAを細かく分離することができます。一方、濃度を薄くすると網目が粗くなり、サイズの大きなRNAを細かく分離できます。

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ブロッティング

初めにアガロースゲル電気泳動により分離したRNAをアガロースゲルからニトロセルロース膜もしくはナイロン膜(メンブレン)に写し取ります。今回は2種類の方法を紹介します。

キャピラリー法

キャピラリー法によるノーザンブロッティングの概略図
画像素材【PIXTA】

転写バッファーで湿らせたろ紙またはスポンジの上にアガロースゲル、メンブレン、ろ紙・ペーパータオルの順に重ね、重しをして一晩おきます。すると、ろ紙が転写バッファーを吸い上げる力で、アガロースゲル上のRNAを膜に移動させることができます

電気泳動法

RNAが負の電荷を持つことを利用します。陰極側からアガロースゲル、メンブレンの順に重ね、電流を流します。すると、RNAは陽極側に引っ張られ、ニトロセルロース膜に移動します

次にメンブレン上のRNAが付着していない部分に他の核酸やタンパク質が結合しないようにブロッキングします。ブロッキングにはカゼインやウシ血清アルブミン、スキムミルク等を用います。膜をこれらの溶液に一晩浸して完了です。ブロッキングによりプローブの膜への非特異的な結合を防ぎます。

検出

検出するmRNAと相補的なプローブを結合(ハイブリダイゼーション)させます。検出方法には32Pなどの放射性同位体(RI)を用いた方法とアルカリホスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素による化学発光を用いた方法があります。また、RIや酵素を直接結合させたプローブを用いる方法とビオチンが結合したプローブ(ビオチン標識プローブ)を用いる方法があります。ビオチン標識プローブを用いる方法では、ビオチン結合タンパクのアビジンなどで標識した酵素を用います。ビオチンとアビジンが結合し、間接的に酵素をmRNAの部分に結合させることができ、検出できます。

まとめ

今回の記事ではmRNAの検出・定量方法の一つのノーザンブロットについて紹介しました。

  • 転写産物のサイズが分かる
  • 異なるサイズの転写産物を検出できる
  • 検出の特異度が高い
  • 別のmRNAの測定も可
  • 測定コストが安い
  • 定量はできるが微量な差を検出しにくい
  • 測定に必要なRNA量が多い
  • 測定に時間がかかる
ノーザンブロットの手技

①RNAの抽出
細胞や組織からRNAを抽出する。代表的な方法に有機溶媒を用いた抽出法、スピンカラムを用いた抽出法がある。

②アガロースゲル電気泳動
電気泳動でRNAをサイズ毎に分離する。測定したいRNAのサイズによってゲルのアガロース濃度を調節する。

③ブロッティング
アガロースゲルからメンブレンにRNAを写し取る。代表的な方法にキャピラリー法と電気泳動法がある。

④検出
ブロッティングしたmRNAを検出する。放射性同位体(RI)や酵素による化学発光を用いた方法がある。

mRNAを検出・定量する方法はノーザンブロット以外にもあります。他の方法については、下記記事にて紹介しています。

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この記事の作成に関わらせていただきました。普段は大学病院で病院薬剤師として勤務しています。若手の病院薬剤師向けのTwitterとブログ運営をしています。生物・化学・医療系の記事作成のご依頼があればDMください。よろしくお願いします。
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