「RT-PCRって単語はよく聞くけど、どういうもの?」「RT-PCRを授業で習ったけど、上手く説明できない…」
そんなふうに思っていませんか?
RT-PCRは、生命科学分野でとてもよく使われる手法です。それゆえにテストなどで詳しく説明しなければいけないことも多いものです。しかし、いざ説明するとなると、上手く文章にできない…。
そんなあなたのために、生命科学系の大学院博士課程を経て、現在も大学の研究現場で務めている私が、RT-PCRについて解説します。
- RT-PCRは特定のmRNA配列を増幅する方法
- RT-PCRの工程4ステップ
- RT-PCRで特定の遺伝子を検出・定量できる
- リアルタイムPCRとは別の手法
この記事を読めば、「RT-PCRについて説明せよ」という記述問題もスラスラ書けるようになります。参考書を何冊も読まなくても大丈夫です!
RT-PCRは特定のmRNA配列を増幅する方法
RT-PCR(reverse transcription PCR)とは、mRNAをcDNA(complementary DNA)に逆転写し、そのcDNAを鋳型としてPCR(Polymerase chain reaction, ポリメラーゼ連鎖反応)を行う方法です。
PCRとは、特定のDNA領域を、DNAポリメラーゼという酵素によって、複製して増やす方法です。PCRによって、2本鎖DNAが指数関数的に増えていきます。
RT-PCRは、mRNAの発現を解析する方法の、いくつかある手法のうちの一つです。
RT-PCRの工程4ステップ
ここからはRT-PCRの工程を4つに分けて紹介します。
- RNAの抽出
- RNAを逆転写、cDNA合成
- cDNAサンプルを鋳型としたPCR反応液を調製する
- PCRサイクルを繰り返す
※1・2がRT(reverse transcription, 逆転写)の工程で、3・4がPCR(Polymerase chain reaction, ポリメラーゼ連鎖反応)の工程です。
RNAの抽出
初めに細胞や組織からRNAを抽出します。今回は、RNAを抽出する代表的な方法を2つ紹介します。
有機溶媒を用いた抽出法(AGPC法)
DNAとRNAでは糖の部分が、DNAではデオキシリボース、RNAではリボースとなっています。そのため、酸性条件下でフェノール処理するとDNAは有機相に、RNAは水相に分配されます。この性質を利用し、グアニジンチオシアネートによりRNaseの失活と細胞の可溶化を行なった後、フェノール/クロロホルム処理により水相に分配されたRNAを回収します。
スピンカラムを用いた抽出法
グアニジンチオシアネートで処理した溶液をシリカゲルメンブレンカラムを通してRNAを抽出する方法です。細胞や組織をホモジナイズまたは凍結粉砕し溶解した抽出液から、まずDNAを除去します。その後、RNAを吸着するカラムに通し、RNAのみを単離します。
RNAを逆転写、cDNA合成
次に、逆転写酵素を使って相補的な配列のcDNAを作ります。mRNAは分解されやすく、かつPCRで使用するDNAポリメラーゼは鋳型にすることができないためです。
逆転写を行うには、逆転写酵素の他、dNTPsとプライマーをmRNAサンプルに入れ、酵素活性に適した温度で反応させます。
真核生物のmRNAを増幅させる場合には、oligo dTプライマーを用いることが多いです。
cDNAサンプルを鋳型としたPCR反応液を調製する
PCRではDNAポリメラーゼという酵素が目的配列の増幅を触媒します。そのため、DNAポリメラーゼと、cDNAと増補的な配列のプライマーを入れます。
PCRサイクルを繰り返す
ここからは目的領域を増幅させていく工程です。
増幅は「熱変性」→「アニーリング」→「伸長」という3つのステップを繰り返すことで進みます。
1.熱変性
90℃以上に加熱することで、2本鎖DNAを解離させます。
2.アニーリング
55℃〜60℃に温度を下げると、開いた2本鎖にプライマーが結合します。
3.伸長
72℃に温度を上げると、DNAポリメラーゼがプライマーを開始点として、相補的なDNAを作ります。
この3ステップを1サイクル回すと1つの2本鎖DNAは2つに増え、さらに1サイクル回すと4つに増え…と指数関数的に増えていきます。
このPCRサイクルを30回程度繰り返すことで、約1時間後には10億コピー以上の目的配列が増幅されます。
RT-PCRで特定の遺伝子を検出・定量できる
RT-PCRによって、目的の遺伝子領域を増やすことができます。RT-PCRで増幅したDNAを検出・定量することにより、2つのことがわかります。
- 目的遺伝子がmRNAとして発現しているかどうか
- 目的遺伝子がどのくらい発現しているか
検出・定量の方法には、アガロースゲル電気泳動、リアルタイムPCR、デジタルPCRといった方法があります。
まとめ
RT-PCRは、こちらの4ステップで行うことができます。
- RNAの抽出
- RNAを逆転写、cDNA合成
- cDNAサンプルを鋳型としたPCR反応液を調製する
- PCRサイクルを繰り返す
この方法で増やされた遺伝子配列を検出・定量することで、2つのことがわかります。
- 目的遺伝子がmRNAとして発現しているかどうか
- 目的遺伝子がどのくらい発現しているか
遺伝子を勉強、研究する上で、RT-PCRは避けては通れない手法です。この記事を周りの人に説明できるくらい読み込んで、RT-PCRを自分のものにしていきましょう!
リアルタイムPCRとは別の手法
頭文字が同じ「リアルタイムPCR」とRT-PCRとを混同して覚えてしまう方がいます。リアルタイムPCRはRT-PCRの一種であるため間違えやすいのですが、この2つは別の手法のことを指します。
「RT-PCR」で増幅される様子を検出・定量する方法の1つが「リアルタイムPCR」です。
リアルタイムPCRをする場合には、RT-PCRの工程3で、「DNA2本鎖が作られると蛍光を発する物質」をサンプルに加えます。そして、工程4のPCRサイクルを繰り返して目的のDNA領域を増幅させる中で、2本鎖になったDNAが蛍光を発します。その蛍光をリアルタイムにモニターし、一定の蛍光強度に達するまでの時間を計測します。PCRでは指数関数的にDNA2本鎖が合成されるため、一定の蛍光強度に達するまでにかかった時間から、元のcDNAサンプルの量(≒mRNAサンプルの量)を算出することができます。