生命科学の授業を受けていて、こんなことありませんか?
「リアルタイムPCRは習ったけど、他の遺伝子発現を調べる方法は宿題として調べてくるようにと言われてしまった。」「ノーザンブロッティングは実験でやったけど、他のmRNA定量法って何があるのかな?」
でもいざ調べようとすると、出てくるのはリアルタイムPCRやノーザンブロッティングのことばかり。一体どうすればいいの!?
そんなあなたのために、生命科学系の大学院博士課程を経て、現在も大学の研究現場で務めている私が、よく使われている方法を厳選して紹介します。
- 遺伝子発現の定量法には「特定の遺伝子を定量する方法」と「網羅的な遺伝子発現を定量する方法」がある。
- 「特定遺伝子の定量」はRT-PCRかノーザンブロッティング
- 「網羅的な遺伝子定量」はDNAマイクロアレイとRNA-seq
一つひとつの方法を自力で調べると大変ですが、この記事を読めば遺伝子発現の定量法の全体像がすぐにわかります。
授業や課題に使えるだけなく、将来の研究にも直結する知識を学んでいきましょう!
遺伝子発現(mRNA)の定量で細胞の変化がわかる
遺伝子発現を見ることは、「その細胞、さらにはその組織や個体がどのような変化をしているか?」を見ることと同じです。
とある細胞の成長遺伝子が発現していれば、その細胞は増殖して行くことになりますし、分化マーカーが発現していれば、その細胞は分化して別の機能を獲得しようとしています。
例えば細胞に何か刺激を与えて、幹細胞が増殖するか、それとも分化するかを解析することは、その刺激がどんなはたらきを持つかを解明することにつながります。
特定の遺伝子発現を定量する手法4選
RT-PCR法
RT-PCR(reverse transcription PCR)とは、mRNAをcDNA(complementary DNA)に逆転写し、そのcDNAを鋳型としてPCRを行う方法です。
このRT-PCRによる増幅をモニターする方法として、下記の3つがあります。
電気泳動による泳動・検出
この方法は、アガロースゲルを使用する電気泳動法です。PCRによって増幅したDNAサンプルをゲルの中で泳動すると、核酸の分子量ごとに移動距離が異なります。そうして分子量ごとに分離した核酸を、臭化エチジウムで特異的に染色します。臭化エチジウムは紫外線を当てると励起し、蛍光を発するため、その光の強さによっておおよその量を定量することができます
なお核酸を分離させてから染色する方法と、サンプルやゲルに事前に臭化エチジウムを添加してから電気泳動する方法があります。
リアルタイムPCR
現在、mRNAの定量方法として最も広く使われているのがこのリアルタイムPCRです。PCRの指数関数的な増幅の様子をリアルタイムで観測し、その増え方からmRNAを定量する方法です。
リアルタイムPCRでは、増幅した場合のみ蛍光を発します。mRNAが相補的な2本鎖を形成した場合のみ発光する、蛍光物質をサンプルの中に入れているからです。一定の強度で発光したタイミングが早いほど元のmRNAが多いということになり、この発光のタイミングによって定量することができます。
デジタルPCR
デジタルPCRは、リアルタイムPCRよりもかなり高精度かつ高感度に定量することができる新たな方法です。
リアルタイムPCRはmRNAを一定量チューブの中に入れてPCRを行いますが、デジタルPCRは仕切りによって数万個に分けられた区画に、目的配列が1つ入るか、入らないか、というくらいになるようにサンプルを入れます。そしてPCRを行い、増幅した区画の数を数えることで定量するという方法です。
発光し始める速さでは無く、発光するかしないかを検出するため、リアルタイムPCRと比べて精度が高いです。リアルタイムPCRでは、夾雑物に妨害されて増幅スピードが遅くなると、mRNA量が実際より少ないという結果になってしまいます。一方、デジタルPCRは増幅スピードが関係なく、最終的に増幅していればきちんと定量できます。
ノーザンブロッティング
標識された核酸プローブによって特定のmRNAを検出する方法です。
まずmRNAをアガロースゲル電気泳動によって分子量ごとに分け、ニトロセルロース膜やナイロン膜に転写させます。そこに化学標識や放射性同位体標識させた相補的配列を結合させ、mRNAを検出します。
遺伝子発現を網羅的に定量する手法2選
mRNAを網羅的に見るというのは、例えば「この細胞に発現している全遺伝子を同時に定量したい」というような目的で使います。
DNAマイクロアレイ(DNAチップ)
この方法は、数百万の区分(セル)に分けられた仕切り付きのマイクロアレイという板を使います。各セルには1種類の1本鎖DNAプローブが固定されており、そこにmRNAサンプルを入れて化学標識を付けます。相補的な配列があるセルでは、ハイブリダイゼーションによってmRNAが結合するため、洗浄しても蛍光標識つきのmRNAが残ります。どのセルに蛍光がみられるかを解析することで、サンプル中にどのようなmRNAが含まれているかを解析でき、さらに蛍光強度によって定量することができます。
RNA-seq
mRNAを網羅的に定量する方法として、2010年代からDNAマイクロアレイに代わり主流となっているのがこのRNA-seqです。
断片化したmRNAを次世代シーケンサーによって解読し、バイオインフォマティクス解析によってどのmRNA由来の断片であるか特定します。そして、同じmRNAがどのくらい生成されているかをカウントすることで定量できます。
まとめ
この記事では、遺伝子発現(mRNA)の定量方法の全体像を解説しました。
- 遺伝子発現の定量法には「特定の遺伝子を定量する方法」と「網羅的な遺伝子発現を定量する方法」がある。
- 「特定遺伝子の定量」はRT-PCRかノーザンブロッティング
- 「網羅的な遺伝子定量」はDNAマイクロアレイとRNA-seq