遺伝子発現解析 PR

【保存版】遺伝子発現(mRNA)の定量法としてよく使われる手法6選

遺伝子技術のイメージ
記事内に商品プロモーションを含む場合があります

生命科学の授業を受けていて、こんなことありませんか?

「リアルタイムPCRは習ったけど、他の遺伝子発現を調べる方法は宿題として調べてくるようにと言われてしまった。」「ノーザンブロッティングは実験でやったけど、他のmRNA定量法って何があるのかな?」

でもいざ調べようとすると、出てくるのはリアルタイムPCRやノーザンブロッティングのことばかり。一体どうすればいいの!?

そんなあなたのために、生命科学系の大学院博士課程を経て、現在も大学の研究現場で務めている私が、よく使われている方法を厳選して紹介します。

この記事の要点
  • 遺伝子発現の定量法には「特定の遺伝子を定量する方法」と「網羅的な遺伝子発現を定量する方法」がある。
  • 「特定遺伝子の定量」はRT-PCRかノーザンブロッティング
  • 「網羅的な遺伝子定量」はDNAマイクロアレイとRNA-seq

一つひとつの方法を自力で調べると大変ですが、この記事を読めば遺伝子発現の定量法の全体像がすぐにわかります。

授業や課題に使えるだけなく、将来の研究にも直結する知識を学んでいきましょう!

遺伝子発現(mRNA)の定量で細胞の変化がわかる

遺伝子発現を見ることは、「その細胞、さらにはその組織や個体がどのような変化をしているか?」を見ることと同じです。

とある細胞の成長遺伝子が発現していれば、その細胞は増殖して行くことになりますし、分化マーカーが発現していれば、その細胞は分化して別の機能を獲得しようとしています。

例えば細胞に何か刺激を与えて、幹細胞が増殖するか、それとも分化するかを解析することは、その刺激がどんなはたらきを持つかを解明することにつながります。

特定の遺伝子発現を定量する手法4選

RT-PCR法

RT-PCRの概略図
画像素材【PIXTA】

RT-PCR(reverse transcription PCR)とは、mRNAをcDNA(complementary DNA)に逆転写し、そのcDNAを鋳型としてPCRを行う方法です。

RT-PCRの概略図
RT-PCRって何?RNAを増幅する原理や「リアルタイムPCR」との違い 「RT-PCRって単語はよく聞くけど、どういうもの?」「RT-PCRを授業で習ったけど、上手く説明できない…」 そんなふうに思っ...

このRT-PCRによる増幅をモニターする方法として、下記の3つがあります。

電気泳動による泳動・検出

アガロースゲル電気泳動
画像素材【PIXTA】

この方法は、アガロースゲルを使用する電気泳動法です。PCRによって増幅したDNAサンプルをゲルの中で泳動すると、核酸の分子量ごとに移動距離が異なります。そうして分子量ごとに分離した核酸を、臭化エチジウムで特異的に染色します。臭化エチジウムは紫外線を当てると励起し、蛍光を発するため、その光の強さによっておおよその量を定量することができます

なお核酸を分離させてから染色する方法と、サンプルやゲルに事前に臭化エチジウムを添加してから電気泳動する方法があります。

  • 必要な装置が安価
  • 分子量ごとに分けるのて、おおよその分子量がわかる
  • 複数のmRNAが一本のバンドに見え、誤った解析をしてしまう可能性がある
  • 他のPCR法に比べて精度が低い
アガロースゲル電気泳動
DNA・RNAをアガロースゲルで電気泳動する原理・方法を解説!よくある失敗の原因3選も DNAやRNAを電気泳動することができるみたいだけど、原理がよくわかっていない なぜ核酸が動いていくの?分かれていくの? ...

リアルタイムPCR

リアルタイムPCRの装置
画像素材【PIXTA】

現在、mRNAの定量方法として最も広く使われているのがこのリアルタイムPCRです。PCRの指数関数的な増幅の様子をリアルタイムで観測し、その増え方からmRNAを定量する方法です。

リアルタイムPCRでは、増幅した場合のみ蛍光を発します。mRNAが相補的な2本鎖を形成した場合のみ発光する、蛍光物質をサンプルの中に入れているからです。一定の強度で発光したタイミングが早いほど元のmRNAが多いということになり、この発光のタイミングによって定量することができます。

  • 電気泳動法やノーザンブロッティングと比べて定量性が高い
  • わずか1時間程度で検出が可能

サンプル調製時のわずかな人為的誤差が結果に反映されてしまう

リアルタイムPCRインターカレーション法の概略図
リアルタイムPCRでの遺伝子定量の原理と方法、研究・医療での活用方法 皆さんはリアルタイムPCR(real-time PCR)について説明できますか?また、実際にリアルタイムPCRを使って遺伝子発現の解析...

デジタルPCR

デジタルPCRは、リアルタイムPCRよりもかなり高精度かつ高感度に定量することができる新たな方法です。

リアルタイムPCRはmRNAを一定量チューブの中に入れてPCRを行いますが、デジタルPCRは仕切りによって数万個に分けられた区画に、目的配列が1つ入るか、入らないか、というくらいになるようにサンプルを入れます。そしてPCRを行い、増幅した区画の数を数えることで定量するという方法です。

発光し始める速さでは無く、発光するかしないかを検出するため、リアルタイムPCRと比べて精度が高いです。リアルタイムPCRでは、夾雑物に妨害されて増幅スピードが遅くなると、mRNA量が実際より少ないという結果になってしまいます。一方、デジタルPCRは増幅スピードが関係なく、最終的に増幅していればきちんと定量できます。

  • 絶対定量法のため、定量精度が最も高い
  • 分析対象以外の核酸が混ざっていても影響を受けにくい
  • 増幅効率の影響を受けづらい
  • 比較的新しい技術のため、他の手法と比べて知見が少ない
  • 装置が高額である

ノーザンブロッティング

ノーザンブロッティングの概略図

標識された核酸プローブによって特定のmRNAを検出する方法です。

まずmRNAをアガロースゲル電気泳動によって分子量ごとに分け、ニトロセルロース膜やナイロン膜に転写させます。そこに化学標識や放射性同位体標識させた相補的配列を結合させ、mRNAを検出します。

  • 目的配列との相補的な配列を使って検出するため、特異性が高い
  • 配列のおおよそのサイズがわかる
  • 転写したメンブレンは数年間保管できるため、追加実験が可能
  • 目視での定量であるため、定量精度が低い
  • 作業に1日以上の時間がかかる
ノーザンブロッティングの概略図
ノーザンブロッティングでRNAを検出・定量する原理と4ステップの方法 皆さんはノーザンブロッティング(Northern blotting)、ノーザンブロット(Northern blot)について説明できま...

遺伝子発現を網羅的に定量する手法2選

mRNAを網羅的に見るというのは、例えば「この細胞に発現している全遺伝子を同時に定量したい」というような目的で使います。

DNAマイクロアレイ(DNAチップ)

DNAマイクロアレイの概略図
画像素材【PIXTA】

この方法は、数百万の区分(セル)に分けられた仕切り付きのマイクロアレイという板を使います。各セルには1種類の1本鎖DNAプローブが固定されており、そこにmRNAサンプルを入れて化学標識を付けます。相補的な配列があるセルでは、ハイブリダイゼーションによってmRNAが結合するため、洗浄しても蛍光標識つきのmRNAが残ります。どのセルに蛍光がみられるかを解析することで、サンプル中にどのようなmRNAが含まれているかを解析でき、さらに蛍光強度によって定量することができます。

  • PCを使って、解析が数分以内でできる
  • 装置が安価

想定される配列をプローブとして使うため、未知のmRNAや変異遺伝子を検出できない場合がある

DNAマイクロアレイの概略図
DNAマイクロアレイ法で遺伝子発現を網羅的に解析する原理と医療現場での活用法 皆さんはDNAマイクロアレイ法について説明できますか?また、実際にDNAマイクロアレイを使った解析ができますか? 「DNAマイク...

RNA-seq

RNA-seqイメージ
画像素材【PIXTA】

mRNAを網羅的に定量する方法として、2010年代からDNAマイクロアレイに代わり主流となっているのがこのRNA-seqです。

断片化したmRNAを次世代シーケンサーによって解読し、バイオインフォマティクス解析によってどのmRNA由来の断片であるか特定します。そして、同じmRNAがどのくらい生成されているかをカウントすることで定量できます。

  • DNAマイクロアレイと違い、予想してなかった未知の配列も検出できる
  • 発現量が少ないmRNAも検出できる
  • 解析に数日~数週間かかる
  • データが膨大になるため、専用サーバーが必要
RNA-seqイメージ
RNA-seqによる遺伝子発現の解析とは?原理やメリット・デメリットを解説! 「RNA-Seqについて調べてくるように言われたけど、難しくてよくわからない!」「結局RNA-Seqって何ができるの?」 そんな...

まとめ

この記事では、遺伝子発現(mRNA)の定量方法の全体像を解説しました。

この記事の要点
  • 遺伝子発現の定量法には「特定の遺伝子を定量する方法」と「網羅的な遺伝子発現を定量する方法」がある。
  • 「特定遺伝子の定量」はRT-PCRかノーザンブロッティング
  • 「網羅的な遺伝子定量」はDNAマイクロアレイとRNA-seq
ABOUT ME
ましろ
生命科学系の大学院博士課程を経て、現在も大学の研究現場で実験業務。専門は、転写を介したタンパク質分解の調節。 元日本学術振興会特別研究員(DC1)。
RELATED POST
一人で就職活動を進め、百何十社もエントリーする時代は終わりました
就職支援サービスを使おう!
就職支援サービスを使おう!