そんなあなたのために、博士号を持ち、国内外で分子生物学の研究を続けてきた私が、その基本と使用例をわかりやすく解説します。
この記事では、次のことを解説しています。
- イムノクロマト法は検体中の抗原の有無を調べる定性的な手法
- イムノクロマト法は「抗原抗体反応」と「毛細管現象」を利用している
- イムノクロマト法は結果が迅速に判定できるが、感度は高くない
- ウイルス抗原検査や妊娠検査など、イムノクロマト法は様々な場面で利用されている
この記事を読めば、イムノクロマト法の原理と臨床現場や家庭での使用例がわかります。皆さんにも馴染みのある検査法ですので、一緒に学んでいきましょう!
イムノクロマト法で検体中に目的タンパク質が有るか無いかがわかる
イムノクロマト法(イムノクロマトグラフィ)は、検体中に目的の抗原(ウイルスタンパク質など)が有るか無いかを調べる定性的な手法です。目視で迅速に結果が判定できるという利点がありますが、定量性は低いです。精密検査前の簡易検査という位置づけで、診断の補助として臨床現場において用いられることが多く、基礎研究の分野で用いられることは多くありません。
イムノクロマト法の基本原理
イムノクロマト法は、抗原と抗体の特異的反応である「抗原抗体反応」と、セルロース膜上を検体サンプル(血液、鼻水、尿など)がゆっくり流れる性質(毛細管現象)を利用した手法です。まず、検体を滴下するセルロース膜(サンプルパッド)上には、目的の抗原を認識する抗体が吸着(固相化)されています。この抗体は、金コロイドなどで標識されており、抗原特異的標識抗体と呼ばれます。検体が滴下されると、抗原と結合した標識抗体も、結合していない標識抗体も一緒に進行方向へ流れていきます。
検体の進行方向にあるテストライン(T)上には、目的の抗原を認識する抗体(抗原特異的固定化抗体)が吸着(固相化)されています。ここで使われている抗体は、サンプルパッド上に吸着されていた抗原特異的標識抗体とは別の場所(エピトープ)を認識する抗体である必要があります。検体中に目的の抗原(ウイルスなど)が含まれている場合、すでに標識抗体と結合した抗原がここに結合するため、このテストラインにバンドが現れます。
テストラインよりもさらに進行した先にあるチェック(コントロール)ライン(C)上には、標識抗体を認識する抗体(標識抗体特異的抗体)が吸着(固相化)されています。ここでは、サンプルパッド上に吸着されていた標識抗体が結合するため、陽性・陰性に関わらずバンドが現れます。もしチェックライン上にバンドが現れない場合、その検査は無効となります。したがって、テストラインとチェックライン両方にバンドが現れた場合は陽性、チェックラインのみにバンドが現れた場合は陰性となります。
臨床現場で使われるイムノクロマト法を用いた検査3選
✓ウイルス抗原検査
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)
何をみる?
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)感染が疑われる患者において、鼻腔または鼻咽頭中の新型コロナウイルス抗原の有無を調べます。鼻腔粘液または鼻咽頭粘液を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
どんなとき検査する?
新型コロナウイルス感染の典型的症状(発熱、頭痛、咳、咽頭痛、味覚・嗅覚障害など)を認めている患者に対し、診断の一助として検査します。
インフルエンザウイルス
何をみる?
インフルエンザウイルス感染が疑われる患者において、A・B型インフルエンザウイルス抗原の有無を調べます。鼻腔粘液を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
どんなとき検査する?
インフルエンザの流行期に、インフルエンザの典型的症状(悪寒、発熱、関節痛、筋肉痛、咽頭痛、鼻水、咳など)を認めている患者に対し、診断の一助として検査します。
ロタウイルス
何をみる?
感染性胃腸炎が疑われる患者において、糞便中のロタウイルス抗原の有無を調べます。ロタウイルスは、主に乳幼児の急性胃腸炎をおこす病因ウイルスです。便を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
どんなとき検査する?
ロタウイルス流行期に、ロタウイルスの典型的症状(下痢、腹痛、嘔吐、発熱など)を認めている患者に対し、診断の一助として検査します。
ノロウイルス
何をみる?
感染性腸炎が疑われる患者において、糞便中のノロウイルス抗原の有無を調べます。便を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
どんなとき検査する?
ノロウイルス流行期に、二枚貝の摂食歴や周囲の流行状況があり、ノロウイルスの典型的症状(下痢、腹痛、嘔吐など)および脱水症状を認めている患者に対し、診断の一助として検査します。
アデノウイルス
何をみる?
流行性角結膜炎、咽頭結膜炎、感染性腸炎が疑われる患者において、角結膜、咽頭または糞便中のアデノウイルス抗原の有無を調べます。角結膜拭い液、咽頭拭い液または便を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
どんなとき検査する?
周囲に感染状況があり、アデノウイルスの典型的症状(鼻炎、咽頭炎、扁桃炎、角結膜炎、胃腸炎)を認めている患者に対し、診断の一助として検査します。
✓細菌性抗原検査
O157
何をみる?
腸管出血性大腸菌感染が疑われる患者において、糞便中のO157抗原の有無を調べます。便を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
どんなとき検査する?
腸管出血性大腸菌感染の典型的症状(下痢、腹痛、血便など)が認められる患者に対し、診断の一助として検査します。
レジオネラ
何をみる?
レジオネラ症(レジオネラ肺炎)が疑われる患者において、尿中のレジオネラ抗原の有無を調べます。尿を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
どんなとき検査する?
レジオネラ症の典型的症状(肺炎、低酸素血症、一般培養検査で起因菌が検出されない)が認められる患者に対し、診断の一助として検査します。レジオネラ肺炎は、急激に進行して高い致死率を示すため、迅速に結果が判定できるイムノクロマト法が頻繁に用いられます。
✓薬物検査
覚せい剤、MDMA、大麻、あへん、コカインなど
何をみる?
禁止薬物の利用が疑われる患者において、尿中の禁止薬物抗原の有無を調べます。尿を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
禁止薬物抗原は、覚せい剤(メタンフェタミンおよびアンフェタミン)、MDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)、大麻(テトラヒドロカンナビノール)、あへん(モルヒネ、ヘロイン)、コカインなどが該当します。
どんなとき検査する?
意識障害やショック症状が認められ、薬毒物中毒が疑われる患者に対し、診断の一助として検査します。救急医療の現場では、迅速かつ簡便に原因検索を行う必要があるため、イムノクロマト法による簡易検査が利用されています。薬物検査キットは、それぞれの禁止薬物抗原に対応する抗体を吸着したストリップを並列に配置したものが販売されており、一度の尿滴下で原因物質の判定が可能です。
家庭や工場で使われるイムノクロマト法を用いた検査2選
✓妊娠検査
臨床現場以外で使われるイムノクロマト法による検査で、最も一般に普及しているのが妊娠検査キットです。
何をみる?
妊娠検査キットでは、尿中に含まれるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)という糖タンパク質ホルモンの有無を調べます。したがって、検査キットのサンプルパッド上やテストライン上には、hCGを捕捉する抗体が吸着されています。尿を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
hCGは、受精卵が着床するとすぐに産生されるホルモンで、黄体を刺激してプロゲステロンの産生を促します。通常、妊娠中にのみ著しく産生されるため、妊娠の指標として用いられます。
✓食物アレルゲン検査
卵、牛乳、小麦、そば、落花生、甲殻類、くるみなど
何をみる?
食物アレルゲン検査キットでは、厚生労働省の定める重篤度・症例数の多い8品目の特定原材料(卵、牛乳、小麦、そば、落花生、えび、かに、くるみ)、または特定原材料に準ずるもの(アーモンド、ごまなど)が食品中に含まれているかどうかを調べます。食品抽出物を検体として、陽性・陰性の判定を行います。
イムノクロマト法のメリット、デメリット
まとめ
この記事では、イムノクロマト法の基本原理と臨床現場や家庭での使用例を解説しました。
- イムノクロマト法は検体中の抗原の有無を調べる定性的な手法
- イムノクロマト法は「抗原抗体反応」と「毛細管現象」を利用している
- イムノクロマト法は結果が迅速に判定できるが、感度は高くない
- ウイルス抗原検査や妊娠検査など、イムノクロマト法は様々な場面で利用されている
タンパク質を検出・定量する他の方法については、下記記事にて紹介しています。